田中肇先生を偲んで 会員からのメッセージ その2

田中先生とは限られた近年限りのご交誼でしたが、深いお付き合いができなかったことを残念に思います。先生は特に植物と昆虫の係わり合い専門にされ、当会にはまことに適切なご指導者でしたが、私も病を得、さらに二人とも90歳を超す老年とあって、あまりご指導いただく機会もなく残念でした。ご冥福をお祈りいたします。   (清水徹男) 


はじめて田中肇先生のお名前に接したのは20年も前のことだったでしょうか。植物観察に興味を持ち、図書館や書店で片端から植物に関する書籍に目を通していましたが、何か物足りなさを感じていました。そのような時に『花と昆虫、不思議なだましあい発見記』を目にしました。花だけでなく、昆虫が併記されている題名に興味を惹かれたのです。そのころは、植物関係の書籍の題名は植物オンリーだったので、今までにない世界に誘ってくれるような気がしました。読み進めると植物が単独で成り立っているのではなく、植物と昆虫との係わり、ひいては、生態系の意味についてまでの複眼的視点で示された世界(花生態学)がそこにありました。私にとっては、まさに「目から鱗」の世界でした。 

田中先生の訃報を聞いたときは悲しい気持ちでいっぱいでしたが、文庫本になった『花と昆虫…』を手に取って春爛漫のフィールドに出かけようと思います。あの植物への暖かいまなざしで、自然界の仕組みをいつも易しく解説をしてくれるはずです。 (高橋康夫)


 よく黒いゴム長靴を御履きになって観察会においでになりました。武蔵野公園の野川第一調節池のまだ起伏が大きくデコボコしているところで、ヘラオオバコの名前を教えていただき、強い風に白いおしべがゆらゆら揺れて花が笑っているようでとても楽しかったです。

また秋の自然観察園では、トラマルハナバチがキバナアキギリの花の中に次から次へと入っていく様子に、てこの原理でハチの背中に花粉を付着させるのだと熱心に説明してくださいました。ムラサキサギゴケしかり。

まだまだいろいろと教えていただきたかったです。   (中村純子)


田中肇先生というと、長靴姿で花をじっと見つめているのを思い出します。また、金色のミツバチで受粉の仕組みをユーモアあふれる口調で語られていたのが忘れられません。 そんな観察会でのお姿とは別の、研究者としての田中先生に触れる機会もありました。

先生と親交の深い多田多恵子先生から教えて頂いた「メールで観察」の出版についてご相談させていただいたことがきっかけで、花生態学に関する先生の著作や「メールで観察」で紹介された文献に目を通しました。その中で、旺盛な探究心、観察への熱意と根気、古今東西の文献資料の調査・収集と緻密な研究で、アマチュアとおっしゃりながらプロの研究者を凌ぐ研究業績を残されていたことを知り、深い感銘を覚えました。さらに、最後の文庫版のあとがきに「花生態学は…アマチュアのルーペとノートだけの観察でも新たな発見はできる」と同好へ人の期待を残されていたのが強く印象に残っています。(野本雅央) 


 植物への愛にあふれ、研究者として素晴らしいお仕事を多く残された偉大な田中肇先生です。いつも尊敬しておりました。思い出は数々ありますがその中から。 

“THゼミ”について:田中肇先生の「質問があったら自宅に来てもらって、説明します

よ」との言葉に甘え、大石会長をはじめ、数人で先生のマンションをお訪ねしました。リビングのテーブルを囲んでの勉強会。我々の質問に、いかにわかりやすく説明するかをいつも考えて、写真や資料・論文などを時間をかけて準備してくださいました。本当にありがたい貴重な贅沢な勉強会(“TH ゼミ”と先生自らが命名)でした。田中先生と大石会長のウィットに富んだ会話はいつも楽しく、時には植物の解剖。不器用な私がまごまごやっている間に先生は本当に手際よくお手製の切れ味抜群のメスを使い細かい作業をさっさとすまし、すぐに顕微鏡をのぞいて確認、時にはカメラ撮影。研究者とし

てのかっこいい姿がそこにありました。 

 田中肇先生写真展について:ある時、先生のご自宅の押し入れに静岡での写真

展で使用した写真パネルがあることが判明。写真数なんと31枚。とても良い保存

状態で、説明コメントパネルもついているのです。こんな見事な作品を押し入れで眠らせておくのはもったいないと「小金井自然観察会の会員さんや多く方々に見せたい」と先生に提案しました。先生もすぐに賛同され、写真展実行委員会が設立となりました。大石会長には会場選択・交渉で奔走いただきました。会場の野川公園サービスセンターでは先生と一緒に楽しく会場設営。1 週間の開催期間中、先生は来訪のお客様にご自身で積極的に説明をされ、お客様にも大変喜ばれました。田中先生と懇意にされておられる多田多恵子先生もお忙しい中かけつけてくださいました。予想をはるかに超える来訪者で、好評を博しました。「この展覧会は嬉しかった!」と先生に笑顔で言っていただけたことは忘れられない思い出の一つです。                      (松原 悦枝) 



 ある時、二枚橋に集合してから、直ぐの土手で田中肇さんを囲んで聞いた話「野生麦の「螺旋状」種子拡散(ドリル構造)について」が印象的でした。野生の麦(特に野生のコムギやカラスムギの仲間)は、穂から落ちた種子を自ら土の中に埋める仕組みを持っています。麦の種子には長い「ノギ(芒・ぼう)」がついていて、その根元はねじれています。これが湿度によって動きます。湿度が上がると「ノギ」のねじれが戻り、「ノギ」が周りの何かに当たると、ねじれの戻りが種子に伝わり、乾燥するとまたねじれます。このねじれ運動(湿度変化)によって、穂が螺旋状(ドリル状)に回転し、種子を土壌の裂け目へ深く押し込みます。つばで水気を付けて回転する様子を皆で観察しました。 田中さんは、江戸落語に出てくる甚平さん(ご隠居さん)のような存在で、色んな知らないことを教えてもらいました。虫と花とのことも、教わりました。そして、いつも図鑑を信じちゃいけないよ、間違っている事もあるからと。田中さんの長靴姿忘れません、知る心も大切に皆で引き継いで参りましょう。なお、「何でも、食べてみる、苦かったら吐き出します」は、私が、引き継ぎます。体はって!!           (吉川實)